研究概要 |
イカ巨大神経線維で電位変化とそれにともなう光学的変化を同時記録するための装置に端を発した方法は, その後, 多数個の細胞とか多数ヶ所の部位から活動電位を同時記録するための装置(multiple-site optical recarding system)の開発へと発展してきた. われわれは, 先ず, 測定装置を組み立て, それを用いて, 初期胚の中枢神経系におけるニューロン活動の多数ヶ所からの同時記録を行い, 個体発生にともなう中枢神経系における線維構築の初期過程についての解析を進めてきた. ぶ卵7日目の鶏胚から摘出した迷走神経-脳幹標本を膜電位感受性色素であるメロシアニン・ローダニン系色素(NK2761)で染色し, 末梢にのびる迷走神経線維を吸引電極で定電流刺激を行い, 脳幹部内のニューロン活動を光学的に測定した結果, 電気緊張性の電位変化と, 伝導性の活動電位の二種類の膜電位応答を多数ヶ所の領域から同時記録した. 迷走神経の刺激に応答したスパイク様の光学的シグナルは, 脳幹部の刺激した側の中央に限局して発現した. この光学的シグナルは伝導性を示し, テトロドトキシンで消失することから, Na^+依存性の活動電位であることが結論された. さらに, この光学的シグナルの発現した領域(応答領域)は迷走神核に対応することが示唆され, この核が個体発生の比較的初期の時期に機能的に形成されることが明らかにされた. 以上の実験から, われわれの光学的多領域同時測定方が, 個体発生過程に於ける中枢神経系の機能構築過程の追跡に有効な方法になり得ることが実証された.
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