研究概要 |
モルモットを用いた昨年度の解析によって, 吸啜から咀嚼への摂食行動の転換にともなって, 旁巨大細胞網様核の背側領域(dPGC)への交叉性の皮質延髄投射の起始部位が吸啜野から咀嚼野後部へ移動し, 皮質吸啜野からの皮質延髄投射が消失することが明らかにされた. そこで今年度は, この現象が吸啜野の起始細胞の細胞死によるのか, あるいは軸索の退行変性によるのか, 後者とすれば残存する細胞体はどこへ投射するか, を解析した. 1)皮質延髄投射の起始の移動, 生後2日目のモルモットのdPGCへ蛍光色素Fast blueを注入し, 2ヵ月を経過してこの動物が成熟した後, dPGCの同一部位へ別の蛍光色素Nuclear yellowを注入した. 5日後に脳を取り出して失状断連続切片を作製して, これらの蛍光色素によって逆行性に標識された細胞を皮質内で検索した. その結果, 幼弱動物の吸啜野に相当する咀嚼野前部で, Fast blueで標識された錐体細胞が多数認められた. これに対して, 咀嚼野後部の領域では, Fast blueおよびNuclear yellowによって逆行性に二重標識された多数の錐体細胞が見出された. 2)咀嚼野前部から後部への投射 生後二日目のモルモットのdPGCへFast blueを注入し, 成熟後反対側の皮質咀嚼野後部へ蛍光色素Propidium iodideを注入した. 5日後に脳を取り出して前頭断連続切片を作製し, これらの蛍光色素によって逆行性に標識された皮質細胞を検索した. その結果, 幼弱動物の吸啜野に相当する咀嚼野前部には, これら両種の蛍光色素で二重標識された錐体細胞が見出された. 以上の結果から, 1)幼弱モルモットの吸啜野からdPGCへ投射する錐体細胞は成熟とともに延髄へ投射する軸索を失い, これに代わって咀嚼野後部からdPGCへの投射が出現する, 2)延髄への投射を失った咀嚼野前部の錐体細胞は後部へ投射する, と結論した.
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