研究概要 |
傷害を受けた脳に生ずる可塑的な現象を, 運動制御に関与する基底核を対象に形態学的に, ネコを使って検索した. 1.基底核の出力源の一つである脚内核を破壊し数ヶ月の後に小脳核にWGA-HRPを注入した. この両核から分離して投射を受ける視床に, 脚内核の傷害によって終止領域の変化が起こることを期待したが対照と同じであった. 2.シナプスのレベルで可塑的な変化を見る目的で, 視床下核のシナプス構築を精査した. 主要な入力源である淡蒼球(GP), 大脳皮質(Cx), 脚橋被蓋核(PPN)からの軸索終末を同定したところ, GPからの線維は細胞体, 中径以上の樹状突起に対し, 対称型と非対称型のシナプスをしていた. Cx由来のものは小径の樹状突起や棘と非対称型のシナプスをしており, PPN由来のものは細胞体, 各種径の樹状突起と非対称型のシナプスをしているものが多かった. Cx由来の終末のみが細胞体とシナプスしていないことに注目し, GPやPPN破壊後に細胞体上の終末分布に変化が現われることを期待しているが, 結果がでるところまで実験が進んでいない. 3.脚内核以外の基底核の出力源である黒質網様部(SNr)とPPNを実験に組み込んだ. (1)SNrをカイニン酸注入で破壊し, 同時に脊髄にHRPを注入して, 上丘中間層を電子顕微鏡で観察した. HRPで逆行性に標識された細胞体や樹状突起上にSNr由来の変性終末が対称型シナプスを形成する像を捉えることができた. (2)PPNを電気凝固し, 同時に尾状核頭にHRPを注して, 黒質緻密部を電子顕微鏡で観察した. (1)と同様にHRPで標識された黒質ニューロン上にPPN由来の変性終末が非対称型のシナプスを作っていた. いずれの例においても可塑性神経回路を見出していないが, これらシナプスレベルの連絡様式の中に, 傷害によって新しく変化する結合をさらに検索していきたい.
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