研究概要 |
我々はラット胎児大脳皮質の初代培養系を用い, 中枢神経系に内在しかつ中枢ニューロンの発育に影響を与える因子につき検索を進めた結果, 海馬組織中にニューロンの生存を維持する因子が高濃度存在することを見出した. 本年度はこの海馬由来生存維持因子(HNSF)につき更に検討を加えた. まず海馬抽出液を100°C, 30分あるいは0.1%トリプシンにて30分処理すると, HNSF活性は完全に消失した. 一方, 培養液中にNerve Growth Factor(NGF)を添加してもニューロンの生存維持には何ら効果は認められなかった. このことからHNSFはNGFとは異なる蛋白性の因子であることが示された. 本因子の分子量を推定するため, TSK-2000SWによるゲル濾過を行い, 各溶出画分のHNSF活性につき検索してみると, 活性は10〜20K, 20〜30K, 50〜60Kの分子量に相当する分画に回収された. このことからHNSFは単一蛋白ではなく複数の因子であることが示唆された. 次にHNSFがいかなる種類のニューロンに対し生存維持効果を有しているかを調べるため, Tyrosine Hydroxylare, Choline aceyltransfirace, Glutamate decarboxylare(GAD)に対する抗体を用い, 免疫組織化学的染色を行ってみると, GAD抗体でのみ陽性所見が得られた. この結果からHNSFは少なくともGABA作働性ニューロンには生存維持効果を有していることが明らかとなった. 現在GABA作働性ニューロンに効果を有する成長因子の存在は世界的にも報告はなく, 我々の検索しているHNSFは全く新しい神経発育因子であるものと考えられた. 現在牛海馬よりHNSFの精製を試みている.
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