研究概要 |
血管平滑筋機能制御における細胞内カルシウム(Ca)の役割は近年除々に解明されつつある. しかし方法論的な制約および制御機構の複雑性から, 心筋および骨格筋細胞における細胞内Caの役割の解明の程度に比して著しく遅れている. Ca指示薬負荷血管平滑筋標本を種々の実験条件下で長時間安定に保つことが困難なところから, 従来の実験においては, まず血管収縮薬により収縮状態を作り, その状態における各種血管拡張薬による収縮機能と細胞内Ca動態修飾様態が分析されてきた. 一方最近の知見は血管平滑筋張力発生相と持続性収縮相では機能変化を起こす細胞内機構が異ることを示唆している. 張力発生相に対する血管拡張薬の作用を検討するためには, 長時間安定したCa指示薬負荷標本を作成することが必要不可欠である. この目的で我々はエクオリン負荷ウサギおよび白イタチ摘出門脈条片標本を液体培地にて一昼夜安定化させることにより, 血管収縮物質として使用されるKClおよびノルエピネフリン(NE)に対する収縮反応および光シグナル(細胞内Ca濃度変化の指標)がどのように修飾されるかを検討した. エクオリン負荷後3〜4時間安定化させた後KCl30mMを投与すると収縮張力は持続性に上昇し, 約3分後にピークに達した後, 幾分低いレベルの定常状態に到達する. 光シグナルは収縮反応に幾分先行して, ほぼ同様の時間経過でbasal levelに近い値で安定化する. 2時間間隔でKClを繰返し投与すると収縮反応は比較的良く維持されるものの, 光シグナル反応はほとんどの標本において著名な減衰を示す. 酸素化した液体培地中で室温にて15〜18時間安定化させた標本においても第一回目のKCl投与により, 負荷当日とほぼ同程度の収縮および光シグナル反応が惹起される. 一方安定化させた標本においてはKClまたはNEの繰返し投与により再現性の有る反応が3回目まで得られ, この方法により安定性のより高い標本が得られることが示された.
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