研究概要 |
発生初期に形成された, きわめてプリミチヴな血液循環系を用い, その血管壁の働きや血流の動態を光学的に測定した. このような幼弱な循環系には, 従来の生理学的実験法を適用する上での困難が多く, この領域の研究はまだ少ないという現状にある. この限界を克服するため, 新しく光学的測定法の導入を試みた. 光学的測定には, 1)顕微鏡用ビデオカメラと画像処理装置を組み合わせた測定システムと, 2)われわれの研究室で, 膜電位の光学的測定用に開発した, マトリックス型フォトダイオードアレイを受光素子とした光学的多部位同時測定システムを用いた. 〔実験1〕ふ卵53時間, 17体節期鶏胚(体長約3.5mm)を卵から取り出し, 卵黄をリンゲル液で洗い流し, 腹膜を上に向けた状態でビデオカメラを用いた測定システムを用いて, 背側大動脈の部分を観察した. 血管腔内部でまばらな血球細胞が心拍数のタイミングにあせて, 収縮期に速く, 拡張期に遅くというパターンで速さを変えながら末梢へ移動してゆくのがわかる. すなわち, この時期に背側大動脈の血流に, すでに拍動流が形成されていることがわかった. 〔実験2〕ふ卵3日の鶏胚(体長約10mm)の胚外血管網に対し, フォトダイオードを用いた測定システムを使用して実験を行った. 臍腸間膜動静脈からひろがる卵黄膜上の胚外血管網の7.2mm四方の領域から, 12×12エレメントのマトリックス型フォトダイオードアレイにより, 透過光の変化を128箇所から同時記録を行った. その結果, 太い動脈の走行に対応した連続した部位で, 心拍に同期した周期的な光学的シグナルが得られた. このシグナルは, 血管の光散乱の変化に由来するものと考えられ, 心拍と同期し立ち上がり, 相に血管の走行にそった伝播による遅れがみられる点から, 特に脈波と関連したシグナルということができる.
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