研究概要 |
私達は, 一般に分化誘導能を有すると考えられているビタミンAが, ビタミンCと協同して血管内皮細胞に作用し, そのプラスミノゲン活性化因子産生分泌能を飛躍的に活性化することを発見した. そこで今回私達は, ビタミンAの関連化合物についても検討し, β-カロチンにはこの様な作用がないが, レチナール, レチノイン酸, レチノールの脂肪酸エステルはいずれもレチノール(ビタミンA)同様に有効であることを明らかにした. 特にパルミチン酸とのエステルは細胞に対する毒性が極めて弱く, ビタミンAそのものよりもむしろ好ましいと考えられた. ところで内皮細胞の線溶活性の測定は極めて繁雑であったが, 生理的な条件により近い, フィブリンが存在する場での簡便な測定法を開発した. 次に, ビタミンAが線溶活性を促進する機構を分子レベルで解明することを試みた. 血管内皮細胞をビタミンAを含む培地中で培養し, 細胞を破砕抽出し, 細胞中に含まれるタンパク質を電気泳動で分析したところ, 分子量8万6千のタンパク質が新たに出現することが判明した. さらに細胞抽出液に32pで放射ラベルされたアデノシンミリン酸を加え, リン酸化されるタンパク質を詳細に調べたところ, 分子量7万8千および10万のタンパク質が特異的にリン酸化されることが判明した. これらはいずれもプラスミノゲン活性化因子そのものでなく, 同因子の産生・分泌能の活性化とどの様に係っているのかを現在さらに検討中である. ビタミンA関連物質の内皮細胞に与える作用をさらに調べたところ, 細胞内への低密度リポタンパク質の特異的な取り込みが増加することが判明した. この作用に関与すると考えられる酵素トランスグルタミナーゼについて検討したところ, 内皮細胞中には確かに分子量5万8千の同酵素が存在し, レチノール処理によって酵素活性が増大することを発見した. この現象の生理的な意味については現在検討中である.
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