研究概要 |
我々はすでに肝臓において, (1)虚血により細胞内ATP値が低下すると細胞内Ca^<2+>濃度の上昇に伴い細胞骨格系に異常が起りBlebが形成される. (2)血流再開時に生じたBlebの一部は崩壊し細胞質内酵素の漏出をきたし, 又類洞内で赤血球の通過を妨げ微小循環障害の原因となる. の2点を明らかにした. これらの成果を基に本研究では心臓における虚血後の冠血管抵抗の変動を検討した. ラット摘出心を用いたランゲンドルフ潅流標本で阻血・再潅流後の冠流量の回復率をみると, 阻血5〜15分後の再潅流時には冠流量はコントロール時よりも高い値を示したが, 120分阻血後の再潅流時には47%しか回復しなかった. 短時間の虚血後に冠流量が増加したのは虚血時に蓄積したアデノシンによると推察された. 120分阻血後の心筋内ATP量は0.8μmol/g.dry.wt.とコントロール時の4%に低下し, 再潅流時にも44%にまでしか回復しなかった. この心筋内ATPレベルの低下が冠流量低下に関係しているものと推察された. 一方潅流心のミオグロビンの酵素化状態とチトクローム酸化酵素の酸化還元状態を生体分光光度計を用いて測定し, 冠流量の変化と対応させた. 無酸素潅流によりミオグロビンの脱酸素化とチトクローム酸化酵素の還元が起るが, 短時間の無酸素潅流の後に再酸素化をおこなうと両者はすみやかに元の状態に戻るが, 2時間の無酸素潅流の後に再酸素化をおこなうと再酸素化30分経てもチトクローム酸化酵素は完全には酸化されず, 又ミオグロビンも一部脱酸素化型で残る事が観察された. 又細胞質内酵素の漏出については, 無酸素潅流開始30分後から乳酸脱水素酵素の潅流液への漏出が始まり, 無酸素時間の延長につれて漏出量が増加することも認められた. これらの結果から, 心筋において細胞内エネルギーレベルの低下によって肝でみられたようなBlebの形成とその崩壊が起っていることが考えられた.
|