研究概要 |
血管内皮細胞はATPやトロンビンなどで刺激された時, プロスタグランジンや内皮細胞由来弛緩物質など血管拡張作用をもつ物質を放出する. しかし, その放出反応の制御機構についてはあまりよく判っていない. 細胞内pH(pHi)は, 全ての細胞内反応を制御していると考えられるので休止時および刺激時におけるpHiの変動とその制御機構を知ることは重要である. 今年度は, 培養ウシ大動脈内皮細胞のpHiを新しい螢光性pH指示薬BCECFを用いて測定し, 内皮細胞pHiを制御する機構と, ATPで刺激した時のpHi変化について検討した. 1)プロピオン酸負荷時の細胞内pH変化 内皮細胞の休止時pHiはpH7.30であった. 細胞にプロピオン酸ナトリウムを加えると, pHiは7.30から7.0に低下し, その後急速にアルカリ化が起こり5分後には休止時pHにもどった. このアルカリ化は細胞外Na濃度に依存しており, またヘキサメチレンアミロライドで阻害されたのでNa/H^+exchangerによって起こることがわかった. 2)刺激時にみられる細胞内pH変化 ATPで内皮細胞を刺激すると, 2相性のpHi変化がみられた. すなわち, 初期の酸性化相とそれにひき続いて起こるアルカリ化相である. 酸性化相は添加直後から始まり, 2〜3分後には0.1pHunitまで下がり, その後アルカリ化が起って15分後には休止時pHiより0.01pHunit上まで上昇し一定となった. ATPの効果は濃度依存的であり, そのIC_<50>は約1μMであった. アルカリ化相は細胞外Na濃度に依存し, アミロライドアナログで阻害されたのでNa^+/H^+exchargerによることがわかったが, 酸性化の原因については現在不明であり, 今後解決しなければならない問題である. またATPによるpHi変化は細胞外Caに依存していた.
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