研究概要 |
脳微小血管の調製法に関しては本年度かなり改良して純度の高い標品が得られた. その結果, 膜酵素活性および膜脂質組成における明瞭な加齢変化とその両者に対する外因性コレステロールの影響がはっきりと認められた. 蛋白質あたりのコレステロール量は若齢から成熟までの期間増加しつづけ, 以後一定のレベルに保たれる. リン脂質は成熟までの期間コレステロールよりはやや遅い速度で増加しつづけ, 老齢期に入ると減少の傾向を示している. その結果, コレステロール/リン脂質比(C/P)はほぼ直線的に上昇することがわかり, これは膜の流動性を低下させる原因になっていると想像された. コレステロール添加食によって, C/P比は若齢では影響を受けにくいが, 成熟後は高い値にシフトした. したがってC/P比でみる加齢変化はコレステロール負荷によって促進されると言えよう. 膜脂質組成の変化と膜流動性の低下で表わされる脂質環境の変動は, 膜結合性酵素の活性発現に影響すると考えられる. 脳微小血管のNa_+, K^+-ATPase活性をみたところ, 加齢とともに軽度ながら直線的に上昇しており, C/P比の増加, すなわち膜微小粘度の上昇と一致する傾向がみられた. 一方, アデニレートシクラーゼの活性は若齢から成熟までの期間上昇し, 老齢期に漸減する変化を示した. それは, C/P比よりはむしろ膜リン脂質含量の変化と相関があるように判断された. 脳微小血管内皮細胞のNa^+, K^+-ATPaseは脳実質の電解質平衡を保ち脳脊髄液を産生するうえで, アデニレートシクラーゼはホルモンによる代謝調節などの面でそれぞれ重要な役割を担っているものである. それらの活性は加齢に伴う細胞膜の変質によって異なる方向の影響を受けるため, それらの統合された細胞機能はしだいに正常域から逸脱から, いわゆる老化過程をたどることになると考えられた.
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