研究概要 |
近年, 様々な情報伝達系において百日咳毒素(IAP)による修飾を受け阻害されるGTP結合蛋白質(G蛋白質)の関与が明らかにされてきた. 本研究の目的は細胞増殖のようなゆっくりした応答を引起こす情報伝達機構におけるG蛋白質の役割を明らかにすることである. 今年度は, 主としてSwiss 3T3細胞の増殖誘導時におけるG蛋作質の役割について, DNA合成を指標に検討した. 1.血清による増殖刺激はIAPにより有意に抑制され, その抑制は血清添加後9時間目にIAPを加えても, 0時間目に加えた場合と同じように起きることから, G蛋白質がG1期後半にも必要なことが明らかとなった. またIAP処理は3時間でも増殖阻害には十分であった. 2.血清の代わりに種々の増殖因子を用いたところ, PDGF, ボンベシン, TPAはそれぞれ単独でDNA合成を誘導した. ボンベンシンによる誘導は, IAPにより抑制されたが, TPAによる誘導は抑制を受けず,両因子による増殖誘導の経路は異なることが明らかとなった. 3.PDGFによる増殖誘導は, IAP感受性であったが, 刺激後9時間目にIAPを添加したときには抑制されず,血清やボンベシンによる刺激の場合と異なっていた. またPDGFとインスリンとを共存させるとIAP非感受性に変化した. 4.DNA複製開始反応に対するIAPの影響を調べる目的で, ポリオーマウイルスDNAのin vitro複製系を確立した. 本複製系は, ウイルスの複製開始点を含むプラスミドDNA, 昆虫細胞発現ベクター系を用いて精製したウイルスのlarge T抗原, マウス細胞抽出液, それにATP産生系などにより構成されている. 反応産物の解析から, 半保存的な複製が2回以上おこなわれていることが判明した.
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