研究概要 |
血液凝固系に関与するビタミンK類は新生児・乳児期には欠乏し易く、新生児消化管出血や乳児頭蓋内出血をきたし、特に母乳栄養児に高頻度に認められ、母乳栄養推進の一つの障害ともなっている。これらビタミンK欠乏症発症のメカニズムを明らかにすることを目的に以下の研究を実施した。(1)電気化学的又は白金カラム還元・蛍光検出高速液体クロマトグラフによるヒト血清中ビタミンK類の高感度測定法、及び化学反応還元・蛍光検出高速液体クロマトグラフによるヒト胎盤中ビタミンK類測定法の開発(2)これらの測定法を用いて、ヒト母体・胎児を取りまくビタミンK類の分布について検討を加え、母体血にはK_1,MKー4,MKー6,MKー7が検出されたが、胎児側と考えられる臍帯血、羊水、胎脂、胎便ではK_1及びMKー4のみが検出され、羊水や胎脂にも胎児に必要なK_1及びMKー4が含まれていることから胎児へのK類の補給は臍帯からのみではなく、羊水や胎脂からの補給経路の可能性を示した。新生児・乳児の栄養源である母乳にはやはりK_1及びMKー4が主成分であり、母体と胎児の中間に位置する胎盤及び卵膜ではK,MKー4濃度が高く、これら胎盤や卵膜において胎児に必要なK_1,MKー4が濃縮、選択的に胎児へ輸送され、児ではK_1とMKー4が重要な役割を担っているであろうことが明らかとなった。次に、K類を豊富に含む納豆を分娩前に摂取させた産婦または陣痛発来の妊婦へのMKー4の経静脈点滴投与またはK_2シロップ剤の経口投与により、母体血並びに臍帯血、母乳中K類が上昇したことから、新生児・乳児ビタミン欠乏症の予防には危険の伴う児へのK投与よりも出産前の母体へのKの投与が安全かつ有効であることを明らかにした。あわせて、ビタミンKの機能・代謝にはカルシウムが密接な関係を持つことが知られているので、母体血、臍帯血、胎盤中Ca,Mg,P,Fe,Zn,Na,Kの分布を測定し、胎盤におけるCa沈着と血中ミネラル類との関係についても検討した。
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