研究概要 |
高齢者の歯科医療対策は、歯科界にとっても急務であり、最近報告も数多く見られるようになったが、いまだ本質的な問題に触れたものは余り見られず、老人歯科医療の実態の把握が進められているのが現状である。これらの報告によると、調査母胎の状況、例えば在宅老人や各種老人施設入所者の違いにより傾向が異なっているようで高齢者全体を把握するのが困難とされている。当教室でも有床補綴学の立場より、外来総義歯患者の食生活の状況を調べ、その臨床症状との関係を補綴学的ならびに栄養学的に検討している。この度病院では観察出来ない、歯科治療の受診困難な養護施設入所者、いわゆる寝たきり老人を対照に研究調査し、以下のような結果を得た。 1.特別養護老人ホーム入所者(寝たきり老人)の口腔内の補綴学的研究により、(1)片顎を含めた無歯顎者は、被検者全体の73%の高い割合であった。(2)有歯顎者の残存歯数は平均4,1本で、下顎前歯の残存が多かった。また、この数は他の報告に比べ少なかった。(3)総義歯および局部義歯使用者の約半数の者が不満を持っているが、そのまま使用していた。などが分かった。 また、2.寝たきり老人の食生活の補綴学的ならびに栄養学的研究すら、(1)ADLの食事の評価は、総合評価のレベル1,3,4でほぼ評価が一致した。(2)ADL評価の低下に伴い義歯使用者の割合が減少し、また常食を摂取する者の数も減少した。(3)主食、副食共に常食を摂取するものは無歯顎者より義歯使用者のほうに多かった。(4)食品摂取充足率、栄養素別充足率は、不足するものが多く、また個人差が見られた。以上のような結果より、寝たきり老人の多くが良好な咀嚼機能の回復がえられていないが、それぞれ工夫して食生活を送っていることが判った。今後これらの被検者の継続的な追跡を行ってゆく予定である。
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