研究概要 |
1.所謂初期対話篇群に於ける実体概念の成立過程を特に『リシュミス』を中心に検討した. ここでは「実体」という話はでてこないものの「友愛」のテーマを媒介にして, 同一性を保つ自己(人格)の確立は如何にして可能かという探求が進められており, 実体の基礎概念が素朴な形で成立途上にあることを把握することができた. 2.移行期に位置づけられる『ゴルギラス』では, 「善」「調和」「宇宙の秩序」が同一視され, 評価語の指示する所が, 同一性, 公共性, 実在性をもつものを前提し, 具体的には「宇宙」に顕現しているとの世界観が浮上した. 3.中期対話篇『国家』では特に太陽の比喩, 線分の比喩, 洞窟の比喩の比較により, 認識の諸段階をプラトンは明らかにしていること, プラトンが感覚界を幻影, 叡智界を実在として区別したとの通俗解釈は成立せぬこと,従って感覚的個物にもある種の実体概念を適用していることが推定された. 4.批判期と称される『パルメニデス』では中期対話篇で超越性の強調されていたイデアが, 人間の認識を成立させる先天的な枠組として了解されるべきものとして語られていることが推測された. 特に『パルトニデス』研究前史を検討した中で新カント学派の解釈が重要であることを確認した. 5.後期対話篇群では『テアイテトス』に於て, プロタゴラス, ヘラクレイトスを弁証的に論駁する過程の中で, 如何なる相対主義も, 同一性, 恒常性, 公共性をもった実体を前提とせねば, その主張を語る言語も成立しえぬことが, 次第に明らかにされて行く道程を実証することができた.
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