研究概要 |
本学に寄贈された黄檗版いわゆる鉄眼版一切経について基礎調査を実施し, 基礎となる資料を収集し, その結果, 鉄眼版一切経の目録を作成することに研究目的を置いた. したがって, 本学所蔵の鉄眼版一切経の調査に作業重点が置かれ, 2094の全冊にわたって, 経巻各冊の丁数, 巻末の刊記の有無, 活字体について調査し, 目録作製のための書誌的な記録をとり続けた. 同時にこの記録は電算処理を施し, データ・ベースとなって合理的な検索ができる目録作成の基礎となった. ところで, 現在, 鉄眼版の版木は京都府宇治市黄檗山萬福寺に伝わるが, 一部はすでに失われているので, その全貌は明かではなかったが, 本学所蔵分は全巻揃いだったので, 今回の調査によって全規模を明確にすることができた. また, これまでの通説では, 隠元より鉄眼が伝授した明版を開版したものとされていたが, 文政版である本学の鉄眼版の中には, 一部ながら明朝体ではない清版があったのは注目された. さらにこの調査では, 1200点をこす巻末の刊記を収集したが, これは学界から従来注意されなかった史料で, これによって, 鉄眼の翻刻過程を考察することが可能になった. 以上の学内調査と平行して, 萬福寺に出張し, 宝蔵院所蔵の鉄眼関係資料の撮影, 調査に当たり, その一部を収集することができた. たとえば『大蔵経請去総牒』『全蔵漸請千字朱点』などであるが, これも学界末紹介のもので, とりわけ後者には「越後国頚城郡里五十公宮崎甚助」とあり, 本学の寄贈元である新潟県宮崎家の文政期の記録を発見することができたのは意義深かった. 本研究は二次交付として11カ月から開始した僅か4カ月あまりの短い研究期間であったが, 以上のように大学の内外の調査によって得られた資料は有用なものが多かった. この成果はとりあえず総目録として公刊発表し, このことによって基礎調査研究を終了させ, 今後の仏教史的研究に発展継続させたい.
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