研究概要 |
北京本梵文法華経写本(137葉)を解読した結果次のことが明らかになった. 1.この写本に書かれたテキストは, 現在知られている貝葉本のそれと比較して, 極めて古い伝承を有している. 2.そのテキストはケンブリッジ大学所蔵本no.1682(C_3)及び1683(C_4)のそれと非常に類似している. 3.又, ネパール公文書館所蔵本no.4-21(N_1)のそれと類似している. 4.これら4本のテキストは, 比較的ギルギット本及び西蔵訳に近い. 特にC_3は前半分しか残存していないが, 非常に秀れたテキストを有する写本である. 5.本研究者は, C_3, C_4, K(東洋文庫所蔵本), N_1と北京本とを, 写本グループIと名付けたい. 6.次にケンブリッジ大学所蔵本no.2197(C_6)の後半は, 同no.1684(C_5)に類似する. これらは, 他の写本群と比較して, 独特の読みを有している. 7.東京大学所蔵本nos.408, 412, 413は, 新しく成立した写本と考えられる. そのテキストは, 大英図書館本Or.no.2204, C_6前半及びネパール公文書館所蔵本nos.3-672, 5-144のそれに類似する. 8.以上の如く, ネパール伝承の貝葉写本は, おおよそ, 三類に分れると考えられる. その中で, 北京本など五本は, 秀れたものであり, これに依って法華経の梵語原典が, 新たに作製されることが望ましい. 9.本研究者は, 最近ローマで発表されたギルギット写本(20枚)の研究をも行った. その結果, これは, いわゆるグループCに属するものであることが判明した. 10.英国Indio Officc Libraryより新たに中央アジア出土断片が, 本研究者にもたらされ, 解読の結果, 古い層に属することが判った. 一断片は, 大谷本西域語文書20の一部であることも判明した. 今后本研究者は, 北京本のローマ字本を公表して, 新しい原典作製の初段階を造りたい.
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