研究概要 |
本研究は, チベット語文法をなるべく分りやすく説明した文法書を編纂することを最終目標としている. 従来, ヨーロッパや日本においては, H.A.Ja=Schkeを初めとし, M.Hahnや稲葉正就に至る人々によって優れた文法書が出版されてきた. しかしそれらはどちらかといえば, 文法学の専門書の部類に入れられるような研究的な文法書であったと言えよう. それ故, 初心者が利用するには些か程度が高すぎるきらいがあった. また日本におけるチベット語の研究は, 元来サンスグリット仏典を解読するための補助的な語学として研究されることが多かったために, サンスクリット語を中心に置いたようなチベット語研究という印象をぬぐい難い. しかし仏教研究が進むにつれて研究対象はサンスクリット仏典やそのチベット訳のみに留まらず, 今ではチベット人の学僧によって著された著作がしばしば取り上げられるようになってきた. ここに至って, 翻訳チベット語の文法の知識のみでは間に合わなくなってきた. いわばコロキュアルなチベット語の文法の知識が要求されるようになってきたのである. 幸いにも近年, このような要求に応える優れた文法書がチベット人カルサン・ギュルメ氏によって出版された. 私は共同研究者のツルティム氏と共に, これまでに既にこの書を翻訳し, 試案的なものではあるが一応文法書の形にして出版した. 従って今回の研究の目的は, この試案的な文法書を完成されることにある. そのためにギュルメ氏の文法書に引用されるサキャレクシェなどの古典からの例文を, より有効な例文として使用する方法を考え, 援用されている作品そのものを更によく検討し直してみるということが主たる作業であった. 今後は, この作業によって得られた用例を活用して, 例文を中心とした, 分り易い文法書を完成したい, と思っている.
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