研究概要 |
1.本研究の開始時点の会合で(6月3日), 鍵概念である人間観を詳細に限定せず, 広義にとり, 各研究メンバーが個人研究を行なうことを第一方針とし, 第二に現代イスラム社会についても理解を深めるため, 適当な研究者を招き研究会を開くことを第二の方針とした. 2.第一の方針に従い, 神学担当の中村は人間の能力や悪と倫理の問題に焦点をあて, 初期イスラム原子論的存在論の中でal-Ghazaliに到るまでの人間観の変遷に関する発表を行い(9月25日), シーア派担当の鎌田は神の命令と創造に関連してal-Sijistantの知性論を発表した(10月20日). 神秘主義担当の竹下はShirajiにおける愛の概念について発表し(11月18日), 法学担当の小田はイスラム法形成過程において現想的人格としてのムハンマド像の課した役割について発表した(12月18日). 3.第二の方針に従い, 嶋田義仁氏(静岡大・助教授)に, 文化人類学の立場から西アフリカのフルベ族におけるイスラム化の歴史的過程と現状を報告してもらい, それをイスラムの古典的人間観・社会観と比較検討した(10月17日). ついで, 富田健次氏(中東経済研究所)に現代イランの政治体制について報告してもらい, 古典的シーア派の法理論・イマーム論やスンナ派の政治体制との比較を行った. (12月9日) 4.研究のまとめと今後の課題:研究題目を人間観の諸相とした時予想されたことであるが, イスラムの人間観は二局面に大別されることが計6回の研究会を通じて確認された. つまり, 神学・神秘主義では人間の電性を存在論・形面上学的霊魂論として展開され, 法学では人間の社会性を倫理学的に展開する. 後者の人間観は現代イスラム社会の分析にも一つの有効な視点となりうる. 今後の課題は, イスラムの人間観の二局面がどのように成立し, また関連したのかなどを調べる必要がある.
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