研究概要 |
運動制御行動における運動図式の役割を明らかにするため, 申請書にしたがって次の3つの実験を行った. その成果は次のとおりである. 1.継時的反応時間の課題では, foreperiodを5種に変化させたが, 系列内でもっとも短いときに反応時間はもっとも大きくなることがわかった. この傾向はforeperiodの範囲がどのように変化しようとも同じ傾向を示し, いわゆる刺激出現の時間的文脈による効果が示された. このことは運動制御における運動図式が時間系列的側面においても設定されていることを示唆するきわめて興味ある結果といえる. 2.変圧器操作によって水温を一定に保つ, いわゆる制御シミュレーション課題では, 温度情報の収集過程から操作量と操作のタイミングとの関係が明らかとなった. この結果は練習を重ねるにしたがって制御方式は閉回路方式から開回路方式にじょじょに移り変っていくことを示している. 運動図式が練習によって形成されていく過程が明らかにとなった. 申請した設備備品費は, この実験のために主として用いられた. 3.遅延的視覚情報を伴う随意運動課題では, 英単語の初期動作時に視覚的情報を遅延して呈示(約60msec.〜100msec.)した. 書記速度パターンの分析から遅延条件では, 遅延無し条件に比し英単語の書記時間が長くなる傾向が明らかとなった. このことは随意運動がフィードバック情報に依存する運動図式によって遂行されていることを示唆するものである. 以上の結果から運動制御行動における運動図式は練習によって閉回路方式から開回路方式に変っていくことが明らかとなった. また随意運動においてはフィードバック情報に頼る閉回路方式が重要な役割をすることが判明した. 今後はこの成果を多種多様な運動行動の理解に役立てたいと考えている.
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