研究概要 |
〔目的〕環境内における生物は, 絶え間なく変化し続ける視覚的運動体としての存在であり, その運動形態は決して機械的なものではなく, 生物的社会形成に深く係わる意志的動作(歩く, 走る, 飛ぶ, つかむ, 等)を示す. 非生物的(機械的)運動形態と生物的動作形態との間の基本的差異はその運動特性にあり, たとえ物に備わる形状的変化を失っても残る運動だけで十分にその違いを認識し得るものと考える. かかる生体動作知覚成立の基本条件を明らかにし, 運動視知覚の側面から生物社会形成の仕組みについての理解を深めていこうとするところに本研究の目的がある. 〔方法〕運動点群から構成される, 人間行動の「歩行動作」パターンと人の手の各間接部位の運動を示す「折れ曲がり」パターン, を用い生物体動作知覚と視空間的構造特性との関係(実験1), および運動視覚刺激の分岐効果が果す重要な役割の検討(実験2)を行った. 〔結果と考察〕人間動作を示す運動点群パターンの上下逆転は, 必ずしも逆立ち人間とはならず奇妙な格好の正立人間行動として見られ易い. 運動方向を斜めに変えても同じ傾向が認められるが, 垂直方向にすると横倒しの正立像が明確である. 垂直軸に沿った鏡映像配置では人間の姿は消えて左右相称なまとまり(例えば昆虫類の動き)が起り, 水平軸に沿った鏡映像配置では人間行動の知覚を生じる. 運動刺激の分岐効果については, 与えられた視覚刺激が振り子型運動成分と直進運動成分とに分岐する過程において, 生物的動作形態がもっとも現われ易いことが確かめられた. 〔今後の展開〕生物的動作知覚の研究は米国をはじめ欧州各国知覚心理学者の多くが関心をもつところであって, 本研究の成果ならびに今後の展開は社会的秩序の形成要因分析を進めるそれら各国研究者にとっての基礎的資料となり得るものである.
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