研究概要 |
今日の西欧諸国の抱えるエスニック運動の類型化をめざし, フランス・ベルギー・スイス等のエスニック問題についての知見を得, 同時にアメリカ等のエスニック問題との比較をこころがけた. 移民問題と地域運動とが交錯するケースとしてフランスのコルシカの場合を分析した. また地球=言語問題の一ケースとしてベルギーの場合を分析した(いずれも雑誌論文参照). 地域主義の類型としては, みるべき産業をもたない地域における経済的生き残りをめざす「経済的地域主義」(ラーグドック, コルシカ等), 地域の近代化をめざすべく活力をもった諸勢力を結集した「テクノクラート的地域主義」(ブルターニュ, ロレータ等), 中心部との言語, 文化, 民族性の相違を強調する「ナショナリスト的地域主義」(ブルターニュ, バスク等)が考えられる. また, 経済社会的改革に関心を示し国家の枠組を直接問題にしない「地域主義者」, 地域の自治の拡大を主張し連邦制等の形で国家の形態の再考をはかる「自治主義者」, 国家からの分離を主張する「分離・独立主義者」という類型化も可能である. また地域問題の性格と規模は, 国によって相当異なる. この場合, 国内における経済的格差と文化的差異の大小に注目することが有益である. 典型的な地域問題は, やはり経済的格差と文化的差異とがともに大きい国に多い(フランス等). 「国内植民地主義」もこのタイプに多い. 地域主義が激化しやすいもう一つのタイプは, 逆に経済的中心部が政治的中心部と一致せず, 周辺地域が経済的先道地域の場合である(カタロニア等). また同じエスニック運動といっても, 地域主義運動を移民のそれとでは相違点が多い. 地域主義は, 自らの歴史的領土をもち, 地域の自決権を主張する. 移民の場合は, 地域をもたず, 機会の平等を主張する. コルシカのように二つのマイノリティが不幸にして対立する場合もある. こうした類型化の試みを更に進めていきたい.
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