研究概要 |
本研究は, 昭和61年度科学研究費(一般研究C)「聴覚障害児と自閉症児における異常音声(頭声)の比較研究」を発展継続したものである. 自閉症児にしばしばみられる高い発声(頭声)が, 聴覚障害児の音声の特徴といわれる頭声発声と聴覚的に大変よく似ている印象から, 両者の声を実際に音声分析し比較検討したものが研究1であり, その詳細については上越教育大学研究紀要7巻第1分冊に論文として発表した. 研究1の結果から, 正常幼児の叫声を追加収集しその音響学的な分析資料を研究1の分析資料と比較検討することが, 研究2の目的である. 研究対象児は保育園児, 幼稚園児合計20名とし, 通常の保育・教育場面・自由時間での叫声を録音収集した. また対象児が叫声を発する前の状況について観察し記録した. 録音した音声サンプルの分析は, 研究1と同様にサウンドスペクトログラフ, ピッチエクストラクタにより図形的な特徴とピッチを抽出し, NEC-PC9801Vmパーソナルコンピューターによる分析を行った. その結果, 正常幼児の叫声は自閉症児の叫声と異なり, 第1, 第2, 第3フォルマントとも確認することが可能であり, 基本周波数の平均値も約100Hzほど低い値であった. このことは, 研究1で明らかになった自閉症児の叫声と聴覚障害児の頭声が, 聴覚的印象では似ていても音響学的には異質であったのと同様に, 正常幼児が心理的なストレスを受けた場面で発する叫声とも音響学的には異なるものといえる. 本研究では, 自閉症児のサンプル数の不足や音声資料の収集方法に不十分な点もあり, 軽々な結論は差し控えるが, 自閉症児が心理的なレベルにおける何らかのモニター回路の障害を持つことは疑いないものと考えられる. したがって, 更により高度な中枢の生理・病理学的な問題を含んだ詳細な検討が必要であることが示唆された.
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