研究概要 |
日中戦争過程で戦時経済建設, 社会改造, 農村民主化等々に多大の力を発揮した中国工業合作運動に関する私のこれまでの研究成果をふまえて, 本年度はまず中国工業合作協会の成立およびその背景, そして現在の工業合作協会との同異点を明らかにすることに心掛けた. その結果, 工業合作協会設立の際, エドガー・スノー, ニム・ウエールズ, レウイ・アレーを除けば, とりわけ重要な役割を果したのが救国会派であるとの認識から(1)救国会派の思想, 主張との関連, (2)救国会と合作社の関係, (3)星一聚餐会の活動と協会創出の状況, (4)協会の人選と救国会派, 特に章乃器, 杜重遠, 鄒韜奮の活動との関連, (5)協会の人員配置とその意味等々を実証的に明らかにしえた. かくして研究未開拓な工業合作運動に対する救国会派, 第三勢力の貢献についてより深い理解を得ることが可能となった. この成果は大阪教育大学歴史学研究室『歴史研究』25号に発表した. また, 現在の中国工業合作運動に関しては, 指導者盧広綿, 中国財政, 経済畑で著名な千家駒の言論をベースに, 共産党との関連, 工場管理の問題, 組織内民主化の問題, 工営工場との関連等, かなりふみこんで明らかにしえた. これは『季刊中国研究』1988年春号に「現在の中国工業合作運動について」と掲載されることになっており, 初校済である. その他, 今年度すでに「西南区における中国工業合作運動」, 中国共産党との関連に焦点を絞った「中国工業合作運動と陜甘寧辺区」等の研究も一定程度, 進展しており, 近い将来発表可能と考えている. 本年度科研費は上述テーマを進展, 深化させるため, 『重慶大公報』『文匯報』等々の購入, およびそのマイクロフィルムの焼付, 北京図書館から以前私費で購入した『工業合作』雑誌の焼付, 東洋文庫での史料探しのための交通費等々に使用し, 時代的特性, 地域的特性, 構造把握, 微細な事実発掘など, 研究, 論文を充実させる上で役立った.
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