研究概要 |
全国的視野で古代末〜中世遺跡出土土器の資料収集を進め, また絵巻物の観察を主に刊行本によって進めた. これらの基本的な作業はなお不十分であったが, 資料分析作業により, 今後の中世食器研究へ向けての展望が得られたので, 以下その概要をのべる. 中世の食器組成は, 古代律令体制を反映した豊富な器程構成が変化, 単純化したものである. その組成は基本的には, 供膳形態の椀・杯, 皿, 調理形態の鉢, 擂鉢, 貯蔵形態の壷, 〓, 煮沸形態の鍋, 釜である. この基本組成は全国的にほぼ同様であるが, 各器種の材質, 形態などには地域性が存在する. その特徴的なものは近畿地方の瓦器, 中国地方西部の三脚付鍋, 北九州地方の石鍋, 磁器椀, 関東地方の内耳工器などである. 供膳形態は土師器の占める割合が大きいが, 近年, 鎌倉などの発掘により中世漆器の状況が明らかになりつつある. 大形の椀形態の少ない地域では漆器椀の存在が重視されるべきであろう. このことは絵巻物の観察でも明らかである. 絵巻物では椀のほとんどが漆器として描かれており, 古代末からかなりの普及を考えてよいかもしれない. 調理・貯蔵形態は中世後期には備前, 常滑, 越前などの製品が全国的に流通するが, それまでは古代の須恵器の系統をひく軟質焼成の製品が各地でみられる. その分布圏を細かく追究することは地域構造の究明に有効であろう. 煮沸形態は地域色が強いが, それは古代からの伝統とともに, 鉄製品の普及が関連していると思われる. 絵巻物では鉄製の五徳と鉄鍋とが組み合って描かれる場面が多く, 畿内での普及を思わせる. 西日本西部・四国などの三脚付鍋・釜の存在は, 鉄製品の流通と大いに関連して生産されたものであろう. 以上, 概要を述べたが, なお組成の明確でない地方も多く, また, 中世土器と関連して文献との照合なども残された大きな課題である.
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