研究概要 |
本研究は, 雇用制度の「柔軟化」にかかわる二つの主要な論点, すなわち就業構造の「女性化」が「柔軟化」を必然化していること, かかる「柔軟化」が雇用創出のうえでも積極的な効果をもつこと, 以上についてフランスの商業及び銀行の両部門を対象に実証的に吟味することを直接の課題にする. 本研究によると, 就業構造の「女性化」は, すでに19世紀後半以降にフランスの専門研究者によっても指摘されてきた事態であり, その場合, 雇用・労働条件の最低規制と個別的な選択権とを法・協約上に制度化する背景として作用してきたという理解が, 重要である. それゆえ, かかる「女性化」をもって最低規制の無賞味さを説く議論は, 事態を正確に理解しているとは評しがたい. 他方, 雇用創出効果についても, むしろ時間当りの労働支出量の上昇をとおして雇用削減の傾向を強めることになる. 本研究は, 以上の実証分析によりながら, 次の政策方向, すなわち就業構造の「女性化」が, 雇用・労働条件の最低規制と個別的な選択権の拡充, これを提示している. しかも, この方向は, 雇用創出効果のうえでもみるべき成果をもつのである. 本研究は, 以上の成果に加えてとりわけ雇用制度「柔軟化」の一焦点というべきパートタイム問題について, フランスを含む欧米諸国で形成されてきた分析視角とそれをめぐる主要な論争点について整理している. ここにいう視角とは, 女性の二重の役割論, 二重の労働市場論, 不安定就業労働論, これらによるパートタイム分析である. この作業は, フランスにおける雇用制度の「柔軟化」について一段進んだ分析を今後におこなうためのごく基礎的なそれである.
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