研究概要 |
円高とともに, 我が国企業の海外直接投資が激増している. そのなかでも特に製造業企業の海外進出は国内産業の空洞化をもたらすのではないか, と懸念されている. もっとも, 製造業全体の海外直接投資額の水準は, GNPとの比率でみると, 長期間, 安定している. 海外進出に伴う最も重要な視点の一つが, その国内雇用へ及ぼす影響である. それは, (1)海外直接投資が国内でなされていたら得られたであろう雇用機会と, (2)海外直接投資がなされなかったら, 国内の生産を引き続き維持することにより, 維持されたであろう雇用機会, の両者の喪失の問題で, 前者については100万人近い数となると推定される. 幾つかの労使団体では, 海外直接投資の及ぼす問題について検討を進めている. 労働団体では, 自動車労連, 電機労連, 全金同盟などが海外進出に対する基本的立場と, それへの対応方針を明らかにしているほか, ナショナルセンターのレベルでも, 春闘白書, 貸金白書などを通して, この問題に関する基本的立場を明確にしている. 経営者団体でも, 日経連や経済同友会が, 企業の海外進出に対しての立場と, 対応の方向を示しているほか, 経営7団体は「海外投資行動指針」(昭和62年4月)を発表している. 以上の流れのなかで, 労働者の「雇用問題政策会議」では, 企業の海外進出による国内雇用への影響の重大性に鑑み, (1)企業における雇用の維持, 確保への努力, (2)企業間労働移動などを通じた雇用開発への努力, (3)職種転換に伴う能力開発の促進, (4)労使間の協議システムの確立, を提言している. 海外直接投資の国内雇用への影響の程度については, 技術的に難しい側面があり, これまでの推計においても, 方法や前提の置き方について必ずしも確立したものがなく, 散見される試算値も参考程度にすぎないのが実状である. 個別企業の現雇用については, 影響がないというのが, 大方の大勢であるが, 喪失もあり, 注意深い観察が今後も必要.
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