研究概要 |
本研究のテーマは1980年代の日米貿易摩擦のメカニズムを探り、そのなかでの対米軍事技術供与の位置を明らかにすることにあった。2年間の研究によって、80年代の日米貿易摩擦の概要について解明することができた。すなわち、1981年5月の日米自動車摩擦の決着、後、通信、工作機能、半導体、コンピュータなど先端産業における日米貿易摩擦がしだいに激化し、それにつれて,日本側の対米譲歩もまた強化されていった。その中で、アメリカの新たな核軍事戦略としてのSDI推進のため、日本の民生用汎用技術を部分的に必要とするようになり、ここから対米軍事技術供与の問題が浮上してきた。対米軍事技術の問題は、アメリカがこれまで進めてきた軍事技術中心の技術開発戦略が今や、民生部門ばかりでなく、肝心の軍事技術の部門でも曲り角にきたことが判明した。同時に、日本の民生用中心で、しかも量産型の技術開発が、世界の最先端にまで登りつめたことを物語っている。 さらに、これらのこと全体が意味しているものは、戦後世界を先導したアメリカの覇権の交代、つまりパクス・アメリカーナの終焉をも問うことになった。しかしアメリカは、核軍事力と国際通過ドルを保持している以上、簡単にその覇権の交代を認めず、アメリカの指導権を維持しながら、経済力のすぐれている日本をその助演者として引き入れようとしている。したがって日米合作による 「日米共同体」 が構想されてくる。 このように、80年代の日米貿易摩擦の進展は、単なる日米間の通商上の摩擦の一時的決着という、これまでのパターンにとどまらず、パクス・アメリカーナそのものの編成替えという、すぐれて体制全体にかかわることを問題にした点で、今後の世界経済の動向を規定する重要な問題になっている。このことを明らかにした点は、本研究の最大の成果であると考えている
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