研究概要 |
1.先進諸国において相互に承認されてきた国際課税の原則は, 非居住者の国内源泉所得に対して当該国が課税権を行使しうるということであり, 国際的な金融証券取引から非居住者に生ずる所得についても, 当該国の金融機関預金や有価証券から生ずる利子, 配当には国内源泉所得として当該国の課税権がこれまでは承認されてきた. そのうち, PE(恒久的施設)を有しない非居住者に対しては, 一律の源泉徴収税が課されてきた. 2.しかし, オフショア市場を含むユーロ市場の発展によって, この国際課税原則が大きく動揺し, 事実上修正されるに到った. ユーロ市場は無国籍自由市場と呼ばれるように, 各国の規制や課税権の及ばない効率的な金融・資本市場であり, その発展を支えてきた一つの要因は, オランダやアンティール等のいわゆるタックス・ヘイブン諸国であった. ところが, わが国を含む主要先進諸国はユーロ市場に対しても課税権の行使を主張してきたため, 内国法人が効率的なユーロ市場から資金を調達することは事実上困難となり, 有力な企業は課税権の行使を免がれるため, 金融子会社をタックス・ヘイブンに設立するという方向に走った. これにより, 国内の金融・資本市場が沈滞するという結果になったのである. 3.こうした問題に対処するため, 1984年夏アメリカは国内源泉債券利子について非居住者への源泉徴収税(課税権の行使)を廃止し, ただちに, 西ドイツ, フランス, イギリスがこれに追随した. ユーロ市場の直接的利用と国内金融・資本市場の振興とを図るこの非課税措置は, 円の国際化を求める「日米円・ドル委員会」でのアメリカ側の主張としてわが国にも向けられ, わが国も1985年4月から居住者ユーロ円債の利子について非居住者への源泉徴収税を廃止した. これにより, 従来の国際課税原則が大きく修正され, わが国企業のユーロ債発行が急増した.
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