研究概要 |
本研究では, 財務会計情報が情報の利用者(企業をとりまく各種利害関係者)と提供者(企業経営者)の意志決定, あるいは彼らへの所得と負担の配分に, どのような影響をもたらすかを, 日本, アメリカ, イギリスにおける公企業, 公益事業の再編成(reorganization)の際の会計の役割を事例にして考察した. ここで再編成の際の会計に着目したわけは, 再編成の折に採用される会計方法なり会計情報の利用のあり方いかんが, そこでの焦眉の問題である累積債務や累積欠損の負担の配分に重要な影響を及すからである. 1.アメリカの公益事業については, 1940年代に規制機関(FPC, SEC等)の主導のもとにすすめられた固定資産と資本の相関的な引き下げ運動をとりあげ, それが異種株主間での損失負担ならびに需要者の料金負担をどのように裁定することになったかを考察した. 2.わが国に関しては, 旧国鉄の分割・民営化の際の長期債務の負担配分の問題をとりあげ, 会計データを用いた当の長期債務累積の原因分析をつうじてこそ, 公正な負担配分が可能となるはずのものであることを論じた. 3.イギリスについては, 鉄鋼公社(British Steel Corporation)の経営・財政の破綻の経緯と再建策につき, わが国の旧国鉄との類似性に注目しながら, そこで会計情報が果した役割を検討した. 特にそこでは, 過年度の経営戦略の失敗を認めたうえでの資産と資本の下方修正による財政再建か, それとも過年度の経営戦略の失敗を不問にしたままでの工場閉鎖という形での財政再建かという対立の構図を明らかにし, 後者の再建策が強行される過程で会計情報が果した役割(経営政策正当化機能)を検討した. なお, 公益事業の他に銀行業における財務会計情報の役割についても研究したが, わが国における保有国債の評価基準を考察するにとどまり, 米・英にまで研究を広げるには至らなかった.
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