研究概要 |
本研究では, 近接連星系で質量降着している縮退星の進化について, 従来あまり論じられていなかった降着物質のもつ角運動量の影響を解明し, この効果を考慮すれば, X線バーストの現存のモデルと観測との矛盾が解決できることを示した. 角運動量の流入に伴い降着星の内部に微分回転が生じると考えられるが, まず, 回転星の流体力学的な不安定について, 筆者が求めた安定性の条件を基礎に, これまで地球物理学の分野で精力的に調べられてきた成果を解析整理し, 全体的な描像にまとめた. さらに, 不安定の結果発生するであろう乱流による角運動量の輸送効率を評価し, 回転星内部の角運動量の再配分には, 非軸対照断熱不安定が有効であり, 特にこれまでも指摘されてきたケルビンーヘルムホルツ不安定ではなく, 微分回転の勾配が小さい(即ちリチャードソン数の大きい)状況下でも起きるバロクリニック不安定が重要であることを示した. 同時に乱流は降着した核燃料の輸送も伴うが, この効率についてもオーダーを推定した. 物質混合のためには, 必要な位置エネルギーを微分回転のエネルギーでまかなわねばならず, 従って, 微分回転の勾配の小さい場合には, 角運動量の輸送と比べると効率が悪く, リチャードソン数に反比例して小さくなることを指摘した. これは従来の回転星の物質混合の研究で見過されていた点である. また, これらの結果を中性子星の場合に応用して, X線バーストの場合従来指摘されていたモデルの欠陥, 即ち, 回帰周期やプロファイルの不規則変動, 十分間以下の短周期の回帰, また増光に伴うバースト活動の停止等の現象が降着角運動量の効果によって如何に解決できるかを明らかにした. 成果の一部は既に発表済みであり, 他は現在投稿中または執筆中である. また, 本研究の予備的な成果は, 1987年7月のソフィアでは, 国際天文連合, コスパー共催のシンポジウムでも発表した.
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