研究概要 |
原子核の(特に短寿命各)核スピン偏極生成技術は, 原子核物理の実験研究に不可欠のみならず, 他分野の物理研究にも極めて重要かつ有効な手段である. 我々の研究室では以前から, 偏極した短寿命ベータ放射性核に適用可能なNMR法を用いて, 幅広い分野の実験物理の研究を続けてきた. これらの研究にベータ放射性核の核スピン偏極の生成は必須であり, 今までは主として核反応の偏極現象を用いてきた. 一方1974年より原子物理の分野において, 加速されたイオン原子と固体とのビーム・ホイル相互作用を用いる新しい核偏極生成技術が研究されてきた. 我々はいち早くこの技術に注目し, 特に斜膜法による核偏極生成技術が高い一般汎用性と簡便性を持ち, 短寿命核を用いる実験には極めて有効である事を実証した. そしてこの技術を我々のNMR法の新しい実験研究に導入し, より幅広い物理研究を発展させた. さらにこのビーム・ホイル法の新しい応用発展を目指して, 強磁性薄膜の偏極電子捕獲による核偏極生成技術新技術開発の基礎研究を開始した. その第一段階として, 蒸着膜表面のビーム・ホイル相互作用への影響の研究を行なった. 強磁性薄膜の生成は一般的には困難であり蒸着法が最も実現性が高いが, これ用いるためには蒸着膜表面の微視的状態について正確に知る必要があった. このため, 高分子薄膜マイラー(5000オングストローム厚)の表面上に極薄い金(10-100オングストローム厚)を蒸着し, この薄膜を用いた斜膜法で生成された短寿命ベータ放射性核の核偏極を測定することにより, その表面状態の微視的形状の種々の知見を得た. この測定に最適かつ収量の多い新しい装置(多重斜膜装置を付置した静伝型反跳核収集器とベータNMR測定装置)を製作し, 多くの基礎データを収集し次の2段階への足掛りを築いた.
|