研究概要 |
Ge,Si,およびIIーVI族やIIIーV族化合物半導体を素材にするヘテロ構造半導体超格子の問題が興味を集めている。また数原子層づつ積み上げて作製できる極薄膜超格子の研究も始まったばかりである。バルクの光学型格子振動を調べるために使われてきた赤外吸収、反射実験法は、試料作製上の制約(例えば、サイズ)のために超格子では有効でなく、今のところラマン散乱法が唯々一つの格子振動を調べる手段となっている。したがって、超格子および極薄膜系の格子動力学を発展させるときには、ラマン散乱スペクトルの理解に直結する理論の展開が必要である。 本研究では、第一に、超格子および極薄膜超格子系に適用できる光学フォノンによるラマン散乱の理論を構築して、光散乱スペクトルの考察から長波長の縦光学フォノンの振舞いを探った。GaAsーAlGaAs超格子の光散乱スペクトルの解析では、ほぼ満足できる結果を得たが、GaAsーAlAs極薄膜超格子では、いくつかの未解決の問題が生じた。格子動力学の発展を必要とする今後の課題である。 本研究の第二の成果として、単一ヘテロ構造上の表面層や半導体表面にできる空乏層内の光学フォノンの挙動とそれによる光散乱スペクトルの研究がある。表面空乏層が不純物の添加量によって、厚みを100〓から50〓と変えたり、原子層エピタキシー技術の進歩により表面層の厚みを容易に制卸できる、ことなどから半導体薄膜のフォノンを理解するためにも解明すべき課題であった。第三に、電子ーフォノン相互作用を通して電子の側からフォノン系を探る可能性に注目した量子井戸内の二次元電子系や励起子の研究にも取り組んだ。量子井戸からの発光スペクトルの磁場依存性を調べ、電子間多体効果の役割を明らかにした。電子ーフォノン相互作用効果の解明が残された課題である。
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