強誘電体相移転において、変位型と秩序無秩序型の2つの典型的な相転移機構が理論的に定義できる。強磁性体の局在モーメントの極限が、強誘電体の後者に対応することはよく知られている。本研究では金属弱強磁性の守谷理論と強誘電体のSelf-Consistentフオノン理論の理論的対応をヒントにして、強誘電体の相転移を統一的に扱うことを試みた。以下の結論が得られた。 1.キューリー定数Cから求めた双極子モーメントと、飽和自発分極から求めた双極子モーメントの比γを各物質毎に求めることは相転移機構の議論で重要である。代表的な強誘電体物質についてこの比を実験結果より求めると、変位型においてはその比が2に近いものが多い。非調和振動子の振動数の平均自乗振幅の減少に対する減少率、という物理的意味をもつ1/t_0というパラメータを定義すると、変位型に於けるこの比の1からずれはt_0の存在により説明される。つまり、金属弱強磁性と変位型相転移の相転移機構としての類似性が明らかとなった。 2.強誘電体の相転移で重要な役割を果たす静電的双極子-双極子相互作用が全体の相互作用に占める割合をパラメータDとして誘電率の計算の際に取り入れた。その結果D=0の場合の計算に比してt_0の効果をより強調することが明らかになった。 3.T=0に近ずくにつれ光学的ソフトフオノンの振動数は減少するが飽和し強誘電相は実現しない現象は、零点振動の結果この減少が抑制され、量子常誘電性とでも呼ぶ現象が生じていると考えられている。この現象を記述するために、h→0で古典論である2の結果と一致するRというパラメータを導入してこれまでの理論を書き直し、1のt_0の効果を分離した。また2のDを考慮すると、Rによる抑制の効果が軽減されることが解った。
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