研究概要 |
ディリクレ型境界条件をもつ磁場中の2次元電子系の量子論の研究をおこなった. この系は, 巨視的観測の可能な「量子カオスの典型」としての意義をもつ. 境界条件としては, 古典的にカオスを示す楕円の場合と, 規則的なダイミックスしか示さない円の場合を考えた. 研究の展開を以下に記すと, 1.ディリクレ型境界条件つきのシュレーディンが一方程式を解き, 固有値, 波動関数を求めた. 楕円の場合は, エネルギースペクトルに多くのレベル反発と非交叉が出現することがわかった. これは量子カオスのユニバーサルな特徴である. 他方, 円の場合は, 真の交叉しか出現しない. 2.上のエネルギースペクトルを金属自由電子の一電子スペクトルとみなし, 多くの電子がある時の基底状態のエネルギーを磁場の関数として求めた. この関数の二階微分より反磁性帯磁率を計算した. その結果, 円の場合は, ランダウの反磁性とほぼ同じ帯磁率を得たが, 楕円の場合は驚くべき結果を得た. つまり, 零磁場帯磁率は, ランダウの反磁性帯磁率の値と比べて著しく小さく, 磁場を強めるにつれ大きくなり, ある臨界磁場のところで, ランダウの反磁性曲線を回復する. この臨界磁場は古典的にはカオスへの転移がおきる磁場である. このように, カオス転移が反磁性帯磁率の異常としてとられることを理論的に予言した. 3.続いて, もう一つの巨視的観測量である電気伝導度の計算をした. ビリヤード内の電子ガス系の散乱行列を求め, これを基礎にして, 対角型の伝導度及びホール伝導度を考察した. いわゆる量子ホール効果と同等なプラトーが, 楕円ビリヤードの場合に期待できることがわかった. これは, 電子カオスにより誘起される量子ホール効果と言えよう.
|