研究概要 |
この研究の目的は, 1, 6-ヘキサンジオールと1, 8-オクタンジオールの単結晶に捕捉された電子について, 光励起による電子遷移の性質を研究することによって, 捕捉サイトの三次元構造とそのダイナミクスを明らかにすることである. この目的を達成するために, (1)偏光吸収スペクトルの測定と, (2)非経験的分子軌道方による理論計算が計画された. (1)については, 液体ヘリウム温度で偏光吸収スペクトルが測定できるクライオスタットを製作した. 既存の, 試料を液体ヘリウムに浸すタイプのクライオスタットを改造して, 熱伝導で試料を冷却する方式にした. この改造によって, 極低温においてノイズの少し吸収スペクトルを測定することが可能になった. 現在, 偏光吸収スペクトルのデータを解析中である. (2)については, アルカンジオール単結晶中に生成した捕捉電子のモデルとして, メタノールないしはエタノールの三量体に過剰電子が付加したイオンクラスターについて, ab initio法を用いて計算を行った. 電子捕捉サイトとして, イオンクラスターの末端のOH基と-CH_2-または他のOH基がカップルした系について計算を行い, そのいくつかは電子に対して安定な捕捉サイトになり得ることを明らかにした. またそれぞれのサイトについて, 過剰電子の存在確率を表わす等高線団を完成させた. アルコール性マトリクスに捕捉された電子について, 等高線団を明らかにしたのはこれがはじめてである. 以上の結果と, 昭和61年度の科研費によって行われた捕捉電子の光誘起ラジカル変換の実験結果と合わせて, アルコール性マトリクス中では, 放射線によって放出された電子は水素結合の欠陥の部分に捕捉されると結論された.
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