研究概要 |
本年度は, 水溶液中での溶質-溶質, 溶質-溶媒相互作用を調べる目的で, エチルアルコールー水混合系, 及びカルボン酸, アミン分+の希薄水溶液中でのグラスター生成とその安定性を調べた. 水溶液中での水和会合平衡反応の平衡定数に比例する定数として, K1及びK2を定義し, 13種の化合物についてこれを求めた. その結果, ギ酸や酢酸と同じくらい, エチルアルコールやイソプロピルアルコールの水和性が強く, また低温領域で顕著な溶質同志の会合が起こることがわかった. このため, 水とアルコールの比が1:20より小さくなると, アルコール分+の鎖状クラスターが溶液内に多く存在し, 水分+は, 逆にばらばらになり, この鎖のアルキル基のまわりを取り囲んでいることがわかった. この鎖は, 水が更に少なくなると不安定となり, 純粋なアルコール中には存在しない. 観測されたクラスター分布による溶液内の分+の会合状況は, NMRや熱測定, 分光測定等の結果を見事に説明し本手法が溶液内の分+レベルでの会合構造に関する重要な情報を与えることが明らかになった. このように, アルコールの会合が, エチルやプロピルといったアルキル基の疎水性水和によって起ることが明らかになったが, ギ酸やメチルアミンあるいはアミド化合物のような親水性の溶質は, 高温領域で溶質-溶質会合を示し, 低温では多量体の生成がおさえられ, 水分子のつくる三次元ネットワークの中にうまく取り込まれ, かえってこれを安定化することが明らかになった. 現在, この新手法を水溶液中での化学反応の解明に応用する実験が進行しているが, これまでの方法では見い出せなかった様々の現象が明らかとなりつつある.
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