研究概要 |
海洋生物, 特に表層部に生息するものは, 必ず310〜360nmに特徴的紫外吸収極大をもつアミノ酸を含んでいる. これらアミノ酸類の構造はすでに報告したが, その存在意義については明らかでない. 陸上植物におけるフラボン類と同様に紫外線を遮断し, DNA・RNAの保護をする. 一次生産者藻類にとって光合成と関係し, 増殖上必須である, 藻類の密度調整物質として働く等の可能性が考えられる. 本研究では, これらの点について検討し, 存在意義を解明することを目的とする. 数種類の鞭毛藻を培養し, 337nmに紫外吸収極大を有する物質を単離し, その構造と確認した. つぎに310〜360nmの光をあてて藻類を培養したところ, 明らかに紫外吸収物質の量的増加が確認された. それ故, 紫外線からの保護としての意義が推定された. 一方, 培養液中にも紫外吸収物質が排出されるのが確認されたので, つぎにこれらの物質を培養液中にある濃度で加えたところ, 増殖が阻害された. このことより, 密度調節に働いていることも示唆された. さて, これらの紫外吸収物質はシクロヘキセノン構造を有し, 母核に1個の不斉炭素をもっている. この立体化学は360nm吸収物質についてはR配置と決定されているが, 他のものについては明らかではない. そこで, D-(-)-キナ酸を原料にしてパリシン(320nm)の合成を試みた. 現在今少しで完成するところまで進んでいる. いずれにしても, 合成が完成すれば種々の同族体が得られるので存在意義解明のための実験に利用できると考えている. これらの物質は, 海洋生物が海から陸へと移動する時に重要な意味をもっていた. あるいはもっていると生物学的には考えられ, 今後もいろいろな角度から研究を進める.
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