研究概要 |
環境水中の富栄養化現象を理解するために, 試料水の化学的及び生物学的活性を速度論的に解析する新しい水質診断法の開発を目的とした. 試料にプローブリン化合物を溶解し, リン化合物の経時変化, たとえば変換様式や変換速度を観測して, 水質を診断するフェイトアナリシス(Fate Analysis)の技法である. 62年度は下記の問題を解決した. 1.リン化合物のフローインジェクション分析法と高速液体クロマトグラフィーに互換性のある検出系を設計した. 高温高圧下でリン化合物を非選択的に化学的に加水分解するケミカルリアクターと, 温和な条件で酵素的に加水分解するバイオリアクターを設計した. 後者については, 無機ピロリン酸を特異的に加水分解する無機ピロホスファターゼ(EC3.6.1.1)をグルタルアルデヒド法で多孔性ガラスビーズ(粒径200〜400メッシュ)に固定した. バイオリアクターの熱安定性, pH安定性, 基質特異性, 金属特異性を詳細に検討し, FIAシステムに組み入れると, ピロリン酸の自動計測用リアクターとして非常に優れた機能を有することを確認した. 2.リン化合物を分解する生物起源の活性物質(講素等)の特性を解明するために, イオン交換クロマトグラフィー及びゲルクロマトグラフィーの分離系を検討した. UV-吸収をもつ生体物質の分布と活性物質の分布を同時に計測できる分析系を設計した. 3.河川水, 地下水, 海水, 精製水(脱イオン水等)についてフェイトアナリシスを行った. 脱イオン水中に非常に活性の高い酵素類似機能をもつ物質が存在することがわかった. 触媒が存在しない時の化学的加水分解の半減期(約3年)に比べると, 約10万倍も加水分解が加速された. その活性物質は生体触媒なのか, イオン交換樹脂由来の物質(例えばアミノ類)なのか, まだ同定されていない.
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