研究概要 |
1.昭和61年4月末に起ったチェルノビリ原発事故によって大気中に放出された放射能は日本上空に到達し, 大気および降水中の放射能のレベルを非常に高くした. 同年6月末までにかなり低くなったが, その後も引き継いて測定を続けた結果, 昭和63年になってもなお降水中に残存していることがわかった. この事実は原子力発電所の事故に由来する放射能が上部成層圏に達していることを示唆し, 従来の常識とは一致していない. 2.Cs-137, Cs-134とともに宇宙線の作用によって生成するBe-7を測定し, その時間変化について考察した. 宇宙線による生成速度の変動とともに雨による除去過程が関係し, その時間変化の機構は複雑ではあるが, それを支配する要因について二, 三の知見が得られた. 3.ストロンチウムの化学分離によって降水中のSr-90を測定したところ, Cs-137の1%程度であることがわかった. これは事故の際の放射能の放出の時に著しい分別作用が起っていたことを示す. またスウェーデンなどヨーロッパ各地における測定結果と比較すると, 日本の大気の中に含まれる放射能の中に揮発性成分が一層濃縮されていることを示唆している. 4.降水中のCo-60, Mn-54のような中性子核反応で生成する放射能についても検出を試みたが濃度が非常に低く検知できなかった. このような放射能は原発事故によって放出されていないことが確認された. 5.今までに得られた実験結果に基いて, 大気中の放射能の移動についての様々な要因について解析中である.
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