研究概要 |
混合原子価錯体の分子素子への応用を目指し, 2,2'-ジベンズイミダゾレート(BiBzIm)で架橋した新しい混合原子価Ru, Os錯体の合成を行なった. 今回得られた結果は次のように要約できる. (1)新規にビピリジンの側鎖に置換基を有する二核錯体〔R_2bpy)_2M(BiBzIm)M'(bpy)_2〕^<2+>(I)(M, M'=Ru, Os;bpy=2.2'-ビピリジン)を合成した. (2)錯体IIの酸化過程は2段の一電子過程として金属上でおこり, 還元過程はbpy上でおこり置換基によって挙動が大きく異なり, R=EtOCOのときには6段の一電子還元過程が観測された. 酸化電位はEtOCO>H>Me, 金属ではRu>Osの順に負電位側にシフトする. (3)混合原子価錯体の安定性を示す尺度である1段目と2段目の酸化電位の差△E1/2はR=EtOCO>Me>Hの順に小さくなり, 置換基の異なる異核二核錯体の方が混合原子価Ru(ii)-Ru(iii)状態が安定であることがわかった. (4)Ru(ii)-Ru(iii), Ru(ii)-Os(iii), Os(ii)-Os(iii)混合原子価錯体において, 特徴的な原子価間電荷移動(IT)遷移が5000〜10000cm^-に観測された. IT遷移のエネルギーと酸化電位の差△E_<1/2>との間には直線関係が成り立ち, △E_<1/2>が大きくなるとIT遷移のエネルギーも大きくなる. (5)BiBzImを架橋配位子とする(I)の混合原子価錯体の安定な理由として(a)BiBzImは2価の陰イオン性架橋配位子であるので金属イオンとの静電子引力が存在する. また(b)MO計算の結果からBiBzImにはエネルギー的に高いπ軌道が存在し, 強いπ供与性の配位子として働き, BiBzImπ-M(iii)dπ相互作用による安定化が大きいことがわかった. (6)Os二核錯体のXPSスペクトルの測定からOs(ii)-Os(iii)混合原子価錯体においては4f7/3に相当するピークが1:1の強度比の一対として58〜60eVに観測されたことからclassllに属することが示された. (7)二核錯体中のbpy上への置換基の導入の合成ルートが確立されたことから錯体の新しい機能化が期待できる.
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