研究概要 |
1.種々のアミンを配位子とするCo(III)錯体に亜硝酸イオンがO原子で配位したニトリト錯体が水溶液中で, より安定なN原子で配位したニトロ錯体へと自発的に分子内機構で異性化する反応(連結異性化)を追跡し, 共存する種々のアミン配位子が反応速度に及ぼす立体的効果を検討した. その結果〔Co(N)_<S->(ONO)〕^<2+>の錯体については, ONO基が乗っている配位面内のキレートの数nが増大するにつれて異性化が抑制されることが判明した. たとえばt-〔Co(ONO)(NH_3)(tren)〕^<2+>ではn=0でしり25°Cでの速度定数k=94.6×10^<-5>/sec, cis-〔Co(ONO)(NH_3)(en)_2〕^<2+>, s-fac-〔Co(ONO)(dien)(en)〕^<2+>, 及びcisα-〔Co(ONO)(MH_3)(trien)〕^<2+>ではn=1でk=15〜18×10^<-5>/sec, t-〔Co(ONO)(MH_3)(en)_2〕^2, mer-k-〔Co(ONO)(dien)(en)〕^<2+>, cioβ_2-〔Co(ONO)(NH)_3(trien)〕^<2+>及びαβS(ffm)-〔Co-(ONO)(fetren)〕^<2+>ではn=2でk=4〜5×10^<-5>/sec, trans-〔Co(ONO)(MH3)(RSSR-Cyc(am)〕^<2+>ではn=4でk=0.6×10^<-5>/secであった. 分子モデルによる考察から面内キレートの数にはaxial位置に立ちONOの再配列に立体障害となるアミン上のHの数と一致することが明らかとなった. そこでこの位置特異的をキレート効果はこのHとの立体障害にあると結論した. 2.上記の結論に基づいて, このONO基の再配列に対し更に大きな立体効果をもつと考えられる錯体として, 大環状の配位子からなるt-〔Co(ONO)(X)Me_6-cyclam)〕^+を合成し, この異性化を検討した. X=NCS^-の場合, その逆トランス効果のため異性化に必要なCo+ONO結合の部分的ゆるみはかなり遅いが, 比較的高温にすると反応が進行する. しかしこの場合では生成物はほとんどONOが脱離しH_2Oが配位したアコ錯体であり, NO_2錯体の生成量はわずかであった. このことは中間体として想定されるトリハプト型の結合をしたONOが極めて不安定化し, この過程を通らず単にONO-M間の結合切断が起ったためと理解される. 即ち, 立体障害が大き過ぎたことに対応する.
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