研究概要 |
光合成反応では水から酸素分子が発生するが, これにマンガンイオンが関与していることは古くから知られている. しかしそのメカニズムは未だ不明であり特にマンガンイオンの酸化状態すらわかっていない. 従来, この光反応の中間体の一つであるS_2-状態にはMu(IV)混合原子価が含まれていることがESRより指摘されていた. 今回の研究では, 各種多核マンガン錯体の合成を行い, それらのESRスペクトルを測定した. 結果は次の通り. 1.新しい二核マンガン(II)錯体を合成し, その結晶構造を決定した. この錯体は, S_2-状態のそれに似たmultiluie ESRシグナルを示すことがわかった. この種のマンガン(II)錯体としては, はじめてのものである. 2.u-oxo-di-u-acetate構造をもつ新しい二核マンガン(III)錯体を, いくつか合成した. 興味深いことに, これらの二核マンガン(III)錯体は, "16本"の微細構造をもつESRスペクトルを示すことがわかった. これは, これまで二核マンガン(III)錯体はESRでは検出できないという常識を完全にくつがえす大発見である. 3.(2)に似たu-acetato-CLI-u-aekoxo二核マンガン(III)錯体を合成し, その結晶構造を決定した. この錯体は(2)のものと異なってESRでは検出されないことがわかった. この原因として, (3)の錯体に弱い反強磁性的相互作用が作用しているためと確定された. このように, 二つのマンガンイオン間の, わずかな磁気的相互作用のちがいが, ESRスペクトルに大きな効果を及ぼすことが明らかにされた. 以上のことより, 二核マンガン(II), マンガン(III)錯体に, MULTILUICE ESRシグナルが観測されることより, S_2-状態のESRの説明に, 必ずしも混合原子価を考りょしなくても良いことが明らかにされた. 又これに基いて酸素発生の新しいモデルを提案した.
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