研究概要 |
層状粘土鉱物はその層間で種々の陽イオンを交換し, 層間化合物を形成することができる. また場合によっては通常の条件では合成不可能な物質を合成する反応場として利用することも可能である. 本研究では, 粘土鉱物としてNa-モンモリロナイト, Na-四フッ素ケイ素(Na-TSM)を選らび, フェリシニウムおよびジプロピルビフェロセニウムイオンを導入することを試みた. ジプロピルフェロセニウム(DPBF)の一電子酸化物のヨウ素塩は, 低温で混在原子価状態を室温で平均原子価状態を示す混合原子価化合物であり, この塩が層間に導入された場合その原子価状態がどのように変化するかきわめて意味がある. 層間化合物の合計は, フェリシニウム, ジプロピルフェロセニウムのI_3塩のジクロロメタン溶液と粘土を水に分散させた系との反応により試みた. フェリシニウムイオンはこの反応によりうまく挿入されたが, DPBFイオンは分解され鉄の化合物として層間に挿入されてしまった. そこで予めn-オクチルアンモニウムを層間に導入した粘土との反応を試みた結果うまく層間に挿入することができた. メスバウアースペクトルの測定からは層間に挿入されたフェリシニウムイオンの電子状態はI_3塩の場合に比べてほとんど変化しなかったが, スペクトル強度の温度依存性は, I_3塩の場合より小さく, 層間では比較的束縛された状態にあることがわかった. 一方DPBFイオンの場合にはI_3塩では室温では平均原子価状態が観測されたが, 層間に挿入されたものでは室温においても平均原子価状態はとらなかった. これは層間における二核フェロセンの構造が電子移動がしにくいひずんだ状態もしくは完全にFe(II)とFe(III)のサイトが区別されうるような結合状態にあるためではないかと考えられる. 以上のように層間に挿入されることによりバルクとは異なる性質が出現するため今後さらにこの研究を発展させたい.
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