研究概要 |
1,10-クェナントロリン(以下phenと略記する),2,2´-ビピリジン(bpyと略記)を配位子とするFe(II),Ru(II),Os(II)のトリス型錯体の光配位子置換反応と光ラセミ化反応の機構を明らかにすることを目的とした. 本研究により以下の心知見が得られた. 1.[Ru(phen)_3]^<2+>: (1)光配位子置換反応は rigid な配位子であるphenが単座配位した中間体を経て進む。(2)光配位子置換反応の量子収率はCF_3SO_3H-CF_3SO_3a系よりHCL-Nacl系で大きい(陰イオンの影響がある)。(3)光ラセミ化反応は主として分子内ねじれ機構によって進む。一部は(1)で述べた単座配位子中間体を経る分子内機構で進む。 2.[Ru(bpy)_3]^<2+>: (1)光配位子置換反応はイオン対交替機構で進む. イオン対を作った錯体の量子収率は対イオンがCF_3SO_3^-<NO_3^-<HSO_4^-<Cl^-<Br^-の順に大きくなる. (2)光ラセミ化反応は主として分子内ねじれ機構, 一部分はbpyが単座配位した中間体を経る分子内結合解裂機構によって進む. 3.[Ru(phen)_3]^<2+>と[Ru(bpy)_3]^<2+>の光反応の比較: (1)光ラセミ化反応・光配位子置換反応共にbpy錯体の方がphen錯体に比べ陰イオンの影響を受けやすい. このことを除けば反応機構は両錯体で同じである. 両錯体間での陰イオンの影響の相違は, 陰イオンが錯イオン金属中心へ近づく, その近づきやすさが配位子のrigidity, 及び分子サイズの違いによって影響を受ける為であると推定される. 4.Fe(II)錯体:0°Cの水溶液中において光強度1.5×10^<-5> Einstein dm^<-3>S^<-1>で3時間の光照射を行ってもこれによる配位子置換反応速度の変化は観察されなかった. この錯体の光反応の量子収率は極めて小さいものと推定される. 5.O^5(II)錯体: 時間上の制約の為, 未だ新しい成果が得られるに至っていない.
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