研究概要 |
宿主DNAから取り込まれた年数の記録が明確で, その塩基配列が宿主細胞由来のがん遺伝子と比較可能な9組のウイルス由来のがん遺伝子(v-abl, v-fos(FBJ), v-fos(FBR), v-mos, v-myb, v-myb-E, v-myc, v-rel, v-src)について塩基置換速度を推定した. その結果, どのウイルス由来のがん遺伝子も, 塩基置換速度は年当りサイト当り10-3のオーダーであった. これで, 対応する宿主細胞のがん遺伝子の塩基置換速度の約100万倍になることが確認された. また, 同義置換速度と非同義置換速度を比較したところ, 宿主細胞由来のがん遺伝子もウイルス由来のがん遺伝子も, ともに同義置換速度が非同義置換速度よりかなり高いことがわかった. これは, がん遺伝子に何らかの機能的制約が働いていることを示唆する. また, 世界各地から単離されたAIDSウイルスのうち, 塩基配列データがわかっているものを収集し, 統計的に比較した. その比較から塩基置換数を推定して, AIDSウイルスの分子系統樹を作成した. その結果, AIDSウイルスは, 大きく「HIV-1グループ」と「HIV-2グループ」に分類されることがわかった. 前者のグループは, 中央アフリカ・ザイールや北アメリカ及びハイチを中心として流行しているAIDSウイルスであり, 後者は西アフリカ・セネガルで採取された新型AIDSウイルスやアカゲザルのAIDSウイルス(SIV-MAC)が含まれる. これらの知見は, 「レトロウイルスの起源と進化」を解明する上で, 非常に重要であると考えられる.
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