研究概要 |
鹿児島県上甑島の沿岸湖貝池の中層(=下層H_2層上端)には光合成細菌が密集分布し, その層を赤紫色に混濁させ, いわゆるバクテリアプレートを形成している. 原核光合成生物の生態を研究する上で格好な場を提供している. 中層には5〜6種類以上の原核光合成生物が出現するが常に優占個体群(10^5〜10^6細胞・ml^<-1>)を維持しているのは大型のChromatiaceae科の細菌でこれまでに記載されているいかなる種類にも相当せず, 新種と考えられる. 本研究ではこの優占する大型光合成細菌が好適な培養条件下に於いてもその生長が極めて緩慢であるにもかかわらず, 何故優占個体群を維持しているのかを明らかにすることを目的とした. 数100lux以上の照度下では本菌の生長速度は低く, バクテリアプレートに混在する他の光合成細菌, および単細胞の緑藻, 硅藻らによって容易に駆遂されるが, 200lux以下の照度下では本菌の生長速度の低下率は緩慢で, 逆にこれら生物より生長速度は相対的に高くなった. とくに, 遮光下での本菌の生長速度は-0.003°時間^<-1>で本菌が本質的に低いエネルギー消費量を持っていることが判明し, これが貝池中層の低照度下での優占個体群形成に重要な役割を有していることが推察された. 本菌に形態的に良く似たChromatium buderiをドイツ微生物保存機構(DSM)からとりよせ, 両種の低照度下での生長を比較した. Chr buderiは運動性が顕著で, 高照度下での生長速度は著しく高い. しかし, 貝池中層に相当する照度条件(600lux以下 12時間明暗周期)では, 生長は本菌に比較して極めて緩慢となった. 以上のことから, 貝池現場に於いて本菌はその低いエネルギー消費と低照度下でも生長可能なことによって優占個体群を維持していることが実証された.
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