研究概要 |
水生のタヌキモや, 湿地に生育するコケ類などを, 栄養を含まない素寒天培地にのせてインキュベートしたところ, これらの植物とともに生活している微小動物寄生菌類が観察され, いくつかの新知見が得られた. 1.ワムシとセンチュウを捕えるArthrobotrys属の新種:今まで報告されたArthrobotrys属のほとんどはセンチュウ捕食菌である. 本研究ではネットでセンチュウを捕え, 短かい柄でワムシを捕える水生のArthrobotrys属菌を分離し, 観察することができた. 分生子の形態が既知種のそのものと一致しないことなどから新種と考えられる. 2.Acaulopage pectosporaのセンチュウ捕食:A.pectosporaはセンチュウ捕食菌として知られている. これを水中に沈めたところ, センチュウを捕えるための捕食枝でワムシを捕えることを発見した(日本菌学会(筑波)で発表). 水中での生長は寒天培地上よりも良く, 捕食枝先端の細胞壁の微細構造も, 本来のワムシ捕食菌Zoophagus insidiansのものとよく似た〓状構造をもつように変化することもわかった(Mycologiaに投稿中). 3.クマムシ寄生菌類:滝壷付近で採集したコケから, Ball ocephala属, Haptoglossa属, Harposporium属などの数種のクマムシ寄生菌類が観察された. これらのうち, 前2者については電顕観察を行った. Harposporium属のものは, クマムシ寄生菌としては初めてで, これについては新種の記載を検討中である. 4.この他たくさんの寄生菌について, 陸生のものを水没させてワムシに感染させる実験, 反対の水生菌にセンチュウを感染させる実験を行った. その結果新事実も明らかとなっており, 今後も継続して研究を進めるつもりである. なお, 無菌操作は科学研究費補助金で購入した無菌実験台と, オートクレーブを用いて行った.
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