研究概要 |
エクジステロイドは脱皮ホルモン活性を持つステロイドであって, 昆虫の後期発生時に前胸腺で合成され, 脱皮・変態時に分泌されることはすでに確立されている. カイコなど多くの種で, 卵巣がエクジステロイド合成の第2の器官であることが見出されてから可成りの日時を経たが, その存在意義については尚明らかでない. 私たちは, この生物学的意義を探るために, 遺伝的に脱皮が困難な系統である光沢不眠蚕を飼育し, これにエクジステロイドを注射して成長させ, これを卵巣の供与体とする移植実験を企画したが, エクジステロイドの注射により充分量の幼虫脱皮を誘導することができず, この試みは現在のところ成功していない. カイコ卵巣に蓄積している主要な遊離エクジステロイドについては, すでにその構造をすべて解明することができた. 同時に蓄積される結合型については, 今まで抽出分離が難かしいことから, その構造は未定であった. 私たちは, カイコ卵巣のエタノール抽出物を脱脂後, セファデックスG15, ケイ酸のカラムクロマトグラフィーの次に, セファデックスLH-20のカラムクロマトグラフィーを加えることによりエクジステロイド結合型の分離に成功した. これを更に逆相系カラムを使用する高速液体クロマトグラフィーで精製し, 機器分析を行なった. 紫外分光, FAB-マススペクトル, 核磁気共鳴などによる分析の結果, 次の6種の結合型の構造を確定することができた. 20-ヒドロキシエクジソンー22-燐酸, エクジソンー22-燐酸, 2-デオキシエクジソンー22-燐酸, 2-デオキシー20-ヒドロキシエクジソンー22-燐酸, 2, 22-ジデオキシー20-ヒドロキシエクジソンー3-燐酸およびボンビコステロールー3-燐酸である. このうち後者の2種は今回始めて分離され, 構造が決定されたものである.
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