研究概要 |
ハワイ東方のクロス海山, 天皇海山列の推古海山, 第1鹿島海山産のコバルトクラスト試料(5点)および根室半島に露出する第三紀のハイアロクラスタイトと熔岩試料(3点)を用いて標記研究を行った. コバルトクラストに被覆された基盤岩石と根室半島産岩石を鉱物学的に比較したが, 基盤岩の鉱物組成がクラスト成長の規制要因とは考えられない. クラスト試料のX線回析によると, マンガン酸化物は基本的にS-MnO_2相で占められ, 水成マンガン団塊と成因的に関連していると推測できる. しかし, 同試料の破断面の走査電顕(SEM)観察では, 金属酸化物の成長ラミナ構造に調和的な生物起源の構造や, 成長構造を横切る管状構造の存在が確認できた. さらに, 破断面の塩酸残渣は, マンガン団塊の場合と同じく, 管状, 網目状, 塊状の構造を含んでいた. 東京大学理学部, 同海洋研究所における文献調査で, それらの構造の多くは菌類や原生動物(底棲有孔虫)の殻と判明したが, どのような属や種が作ったものかは同定できなかった. 生成年代を決定するために, 各試料の成長層を分離して酸処理したが, クロス海山産クラスト試料の1点から珪藻化石が抽出されたのみで, 放散虫, 珪藻, 花粉, ダイノシストなどは発見できなかった. 得られた珪藻化石は示準化石ではなかったので, 新生代という以上の年代情報は得られなかった. 各成長層のSEM観察でナノ化石を良好に保存している試料を選び出し, 奈良教育大学の高分解能SEMで化石鑑定を行った. クロス海山産クラストの最下部からUmbilcosphaeira sibogae,Cyclococcolithina macintyreiかど第四記の生成を暗示する化石が産出した. 第1鹿島海山産クラストの表層部にはPseudoumbilica japonica,Cyclocalgolithussp.など斬新世後記〜中新世初頭を示す化層が存在した. コバルトクラストは底生生物の活動で成長するが, 生成時期は地域によって大きく異なると結論できる.
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