研究概要 |
アジアは霊長類の3大分布域の一つである. オランウータン, ヒト上科で唯一多種類に種分化しているテナガザル等ヒト上科を初めとして, 非ヒト霊長類の中で最も繁栄しており, かつ進化の途上にあるとされるマカカ属を含む真猿類, さらには原猿類が分布している. 本研究はこのアジア産霊長類のテナガザル属とマカカ属に焦点を当て, ヘモグロビンの遺伝子及びタンパク構造を解析, 種間及びヒト, オランウータンのそれらと比較し, 人類進化の観点から考察することを目的とした. 1.インドネシア国スラウェシ(セレベス)島に生息する7種のサル各々について, ヘモグロビンα鎖の代表的な分子型7種の全一次構造を決定比較した. N末端より8,15,57,74,78番目のアミノ酸が相互に置換した4種の分子型が同定された. アミノ酸を一文字の省略で表わすとA型(T/S,D,G,D,H), B型(T/S,G,D,D,H), C型(S,D,G,D,H), D型(T/S,D,D,N,Q)であった. マウラはA型, トンケアナはA,B,D, ヘツキはC型, ニグラ,オクレアータ,ブルネッセンスはそれぞれA,B型を持っていた. 2.東南アジアの島嶼部に広く分布するカニクイザルのαグロビン遺伝子の構造を制限酵素マップ法により分析した. タイとフィリピンの集団では二重重複しており他の高等霊長類に等しかったが, マレーシアの集団では不等交叉によると思われる三重複遺伝子が高い頻度で発見された. 現在三重複遺伝子のクローニングをおこないつつあり, 一次構造の解析に着手する予定である. 3.テナガザルについてはグロビン遺伝子群の中でも高い変異性を有するζグロビン遺伝子の制限酵素マップ法による解析を開始した. テナガザルζグロビンの制限酵素パターンはヒトよりもカニクイザルに類以していた. 現在クローニングを始めており, 構造決定により, 属内種間変異, ヒト, チンパンジーの相同部分と比較する.
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